お寺の書庫にはお寺が創建されて以来の歴史や村の様々な出来事、代々の住職が集めた伝承やおとぎ話、童歌などが集められていた。その膨大な資料の中からばあちゃまが目当てのものの手がかりを見つけだすまで、そんなに時間はかからなかった。
修の様子を見ていてわかったことが沢山あった。そしてばあちゃま自身の体験も役だってくれた。
「亀の甲より年の功とはよく言ったものじゃの…。」
資料と思い出に浸りながらばあちゃまは呟いた。若い頃や幼き日の記憶がよみがえる。それが今の修とだぶる。ばあちゃまは深いため息をついた。
「この時代に…。」
そこには何ともいえない感情がこもっていた。
昼下がり。
ばあちゃまは調べものの手を休めて家に戻った。そんなに根を詰めてする仕事でもない。それより修の世話の方が大事だ。
年の割に速い足取りで歩くばあちゃまに追いついてくる足音があった。
「ばあちゃま。」
呼びかけられて振り返ると、メガネをかけた優しい顔がにこやかに微笑んでいた。
「仁(じん)…。こりゃあ、驚いた。」
ばあちゃまは嬉しそうに笑った。そこにいたのはばあちゃまの孫、修の父親の仁だった。
「随分といきなりじやのう。」
ばあちゃまは思わず笑顔になる。一人娘のただ一人の孫。今では数少ない身内の一人だ。
「来るのなら予め知らせてくれたら良いのに…。」
「いやあ、急に時間がとれたんだ。ばあちゃまに会いたかったし、修の顔も見たかったから、電車に飛び乗って来ちゃったんだ。」
余りに嬉しそうなばあちゃまの顔をまぶしげに見ながら仁は頭を掻いて笑った。
「元気そうだね、ばあちゃま。良かった。修は元気?」
「ああ、元気じゃょ。毎日、友達と外遊びが出来るほどに。」
ばあちゃまはにこにこ請け合った。
「やっぱりばあちゃまに任せて大正解だったみたいだね。」
仁は満足げに肯いた。
「この大自然の中でのびのびと過ごすのが修には一番だと思ったんだ。ばあちゃまに任せてね。僕たち両親では修を甘やかしすぎてしまうから。」
仁は少し目を伏せた。
「ごめんなさい。修の面倒を押しつけて。でも、ばあちゃまにしか頼めなかった…。」
「判っておるよ…。」
ばあちゃまは仁の手の甲に手を乗せた。
「人の親とはそういうものじゃ。」
そして軽く撫でる。
「仁も人の親になったんじゃのう。」
感慨深げに呟く。
「月日が経つのは早いものじゃの…。」
「やだなあ、ばあちゃま。僕はまだ若いよ。ばあちゃまだってまだまだ矍鑠としている。」
仁は苦笑気味な笑顔になった。
「お世辞はいいよ。それより家に戻らねば、と急いでいたところじゃ。お前も来るのじゃろう?麦茶が冷えておるよ。」
ばあちゃまの誘いに仁は肯く。
「うん。そいつは会りがたいな。のどがからからなんだ。」
二人は連れだって家路についた。