「ラデス」 ミュウ神話より
昔々、ラデスという名のラルファル族の少年がおりました。巻き毛の、いたずら好きの子でした。だから、しょっちゅう叱られてはいましたが、本当はとても優しい、しっかりした子でした。
ある日、ニンフィの仲間のオズヌ(わりと小柄で翼を持つミュアズ系に近い種族)が、ガボルの大木の刺に傷つき、蔦に足を獲られて宙吊りになっているところにぶつかりました。その頃は乾燥期で、ガボルの木はカラカラに乾き、表皮が剥げ落ちていてものすごく登りづらいのですが、ラデスは自分が落ちて怪我をする危険性を知りながら、敢えてオズヌを助けるために、ガボルの木に登っていきました。オズヌは逆さ吊りになっていたため頭に血が上り、意識も朦朧としている癖に、本能からか警戒心が異常に強くなっていて、せっかくラデスが助けに来たというのに、その尖った爪で攻撃してきます。おかげでラデスは近づく事が出来ません。しかたなくラデスは、滑らないよう気をつけながら一段下の枝まで降りて、一休みしながら手段を考える事にしました。このままでは、じきにオズヌは死んでしまうでしょうし、ラデスとていつ何時足を滑らせて落ちてしまうかもしれません。どうにかしなければ、とラデスは思いました。そろそろ夕方。暗くなってしまったら、オズヌを
助けるのはなおさら困難になるでしょう。ラベンダー色の空に一番星が輝き出しました。ラデスは祈りの句を唱えながら、必死に考えました。ミュウ神と聖アルラの御名にかけて、罪なき者は救われなければならないのです。祈りが通じたのか、ラデスはふと思い出しました。いつもお母さんがラルファル族の身だしなみだと言って頭に飾ってくれるロオの枝。その葉を燃やした煙には一種の催眠作用があるのです。ラデスは早速、腰につけている布袋から火打ち石を取り出すと、ロオの葉を燃やしました。一筋の煙がたちのぼり、やがてオズヌはぐったりとしてきました。いち早くラデスはオズヌを蔦から解き放ち、そっと抱えてガボルの木から下りました。もう、辺りは薄暗くなっていました。家に帰ると叱られかけましたが、傷ついたオズヌを見たお母さんは黙って許してくれました。
やがて、ラデスが成長して、様々な活躍を遂げた時、そのラデスの肩にはいつも一羽のオズヌが止まっていたのでした。ラデスは全てのラルファル族の信頼と尊敬を得て長となり、ラルファル族を治めるようになりました。ラデスはあの、将軍アムンゼルの祖先にあたります。
さあ、お話はおしまい。おやすみなさい、坊や。
End
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