緑の説話






銀河の中心に近い早くに発達した星ではパニックが起きていました。発達はいつも中心から周辺に向かって進み、その星の文明はもはや発達せず、ひたすら滅亡へと向かうしかない事がはっきりしたからです。誰もがその生命を心配し、滅亡の恐ろしさを想いました。どんな手立ても滅亡を避けるには余りに微弱でした。多くの人々が次々と宇宙船でその星を離れて行きました。でも、この故郷を捨てきれぬ人々は残りました。ほんの一握りの老人達。そして、数人の若者。
どんなになろうと、生まれ育ったかけがえのない星なのだ。
若い者達は旅立つがいい。その生命の続く限り、未来を求めて。
この地を去るにはわたし達は、余りにこの地を愛し過ぎました。
この地を離れてももうわたし達には、新しい故郷を見つける事は出来ないでしょうし、また、見つけたいとも思いません。

刻一刻、時は過ぎ、それでも何故か人々の心は静かでした。やがてその最期の時が近づきつつありました。
例えこの星が、この広大な宇宙から消え去ろうとも、我々の故郷はこの地だけだ。
発達が、中心から周辺へ進むというのなら、既にもう幾つもの星が消えてしまっているのだろうに、何故人々は生き延びる事だけを望んだのだろう。宇宙の意志…?  我々には考えも及ばぬ…。
この宇宙の何処かに、髪がおられるのなら、何故滅亡と共に誕生をもお創りになられたのだろう。
滅亡と誕生と。
この全く正反対のものが、何故、この宇宙に存在するのでしょう?
宇宙全体に発達が進めば、やはりやがて宇宙も、宇宙全体ですらも、滅亡してしまうのでしょうか?
我々にもそれは解らない。
だが若者よ、共に祈ろう。
滅亡が決して全てではないのだと信じよう。
発達と成長と、その表す意味が違うように、滅亡が決してそれだけのものではないと。
去って行った者達がやかて築くだろう未来も、決してそれだけのものではないようにと。
ああ、我々にはもう、祈るしか出来ない。願うしかない。
だが、若者よ。その意志こそが大切なのではなかろうか。
祈りましょう、祈りましょう。より完全な誕生を。
祈りましょう、祈りましょう。滅亡が成長へと繋がるように。我等の生命が、願いが無駄にならぬよう。

想いは緑色の光となり、人々を包み、やがてゆっくりと星全体に広がり、その星は緑に輝きました。そして、その直後、砕け散りました。しかし、その欠けら一つ一つは、やはり緑色の光に包まれて、宇宙全体に飛び散りました。

  End









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